「IN TRANSIT」の育成対象者に向けて実施しているレクチャープログラム、第1回は「海外展開のための資料作成」と題し、2024年10月に開催しました。講師は、IN TRANSITを主催・企画運営する株式会社precg代表取締役/エグゼクティブプロデューサーの中村茜と、舞台技術監督の鈴木康郎さん。国内外での創作・上演経験が豊富な両者が、海外展開に向けた実務資料の作成方法を、実例とともに解説しました。

前半は中村による、「CV(英文履歴書)」「Project Proposal(企画書)」「Budget(予算書)」の基本的な構成と作成のコツに関するレクチャーです。

CV(英文履歴書)とはCurriculum Vitaeの略称で、活動歴やキャリアを伝えるもの。名前や連絡先などの個人情報のほか、学歴・出演歴・受賞歴などを記載します。参考記事があればURLなどもリンクして、A4サイズ1〜2枚、白地に黒文字でまとめることが基本の書式です。  

中村は「ただ経歴を羅列するのではなく、誰とどのような仕事をしているのか、読み手の背景を意識して、簡潔にまとめることが大事です」と話しました。例えば「“招聘されたフェスティバル”を年代が分かるようにまとめるだけで、CVを見た多くのプレゼンターは、該当のフェスティバルディレクターにコンタクトを取ることができます。自身の作品について深く知ってもらうきっかけにつながるかもしれません」と、具体例を紹介しました。

Project Proposal(以下、企画書)は具体的なアクションプランを盛り込んだもので、作品名、コンセプト、記録動画、作品情報(初演年、上演時間、製作体制など)、レビュー記事情報がひと目で分かるように整理します。中村は参考事例として、チェルフィッチュ×金氏徹平『消しゴム山』の実際の企画書を共有しました。

作成に関するポイントとして中村は「プレゼンターが、作品の国際的なテーマ性、日本以外の上演地域でも観客と共有できるようなコンテクストを見いだせる内容を提供することが大切です」と指摘します。例えば『消しゴム山』では、東日本大震災以降、津波を防ぐための高台造成にあたって周辺の山が大きく切り崩されているという事実が作品の背景にありますが、このような日本の具体的な事情を知る海外の人が多いとは限りません。この企画書では、これらの出来事について写真を添えて丁寧に説明することで「国際的に共有できる視点(「災害」や「防災等による街の再開発」など)から背景を理解し、作品に対する解像度を高めてもらうことができます」と話しました。

また、育成対象者には事前にCVと企画書を提出してもらい、中村から個別にフィードバックする時間も設けました。

Budget(予算書)についても、実際に使用された資料を見せながら具体的な作り方が共有されました。基本的な項目は、舞台費、出演費、制作費、広報・記録費などです。中村は「収入想定にあわせて支出を組むことが一般的な日本の予算書作成に対し、海外に向けて作成するときにはまず支出を洗い出し、その費用をどのように集めるかを海外のプレゼンターと交渉していきます」と説明をしました。

後半は、鈴木康郎さんがTechnical Rider(以下、テクニカルライダー)といわれる資料の作成についてレクチャーを行いました。
テクニカルライダーとは技術仕様書のことで、作品の舞台仕様・機材構成・スタッフ体制などが明記され、契約書に付帯する重要な資料です。鈴木さんは、チェルフィッチュ「『三月の5日間』リクリエーション」で作成された実際のテクニカルライダーをもとに、構成を解説しました。

「相手が必要な情報と、伝えたい内容を交えて簡潔に伝えることが大事です」と鈴木さんは話します。「まずは劇場スペックとして、舞台サイズや演技エリア、客席形状などを、作品のサイズ感が伝わる写真を添えて明記します。字幕や照明、音響機材、大道具や小道具、衣装については種類や数を記載したり、人員も含めて手配元をはっきりと書き分けることも大切です」といいます。また、このように具体的に示す重要性を話しながらも「preferable(好ましい)」という表現を活用しながら選択の余地を残すことで、上演可能な劇場を広げる工夫も紹介しました。

両者のレクチャーが終了し、最後に質疑応答の時間が設けられました。

参加者から「プレゼンターへ紹介する方法は理解できたが、アプローチ先をどのように見つけていくと良いでしょうか」という質問があがり、中村が「プレゼンターが抱えている劇場やフェスティバルのプログラムの方針や傾向を予め調べて、関心をもっていただけそうな方へアプローチします。積み重ねていくことで伝え方の精度が上がっていくと思います」と回答しました。

また「海外での上演機会を得るために、“何でもできます”と条件の幅をひろげてしまいがちです」という悩みが共有され、鈴木さんが回答。「招聘する側は、上演の条件が自身の劇場の規模に合うかどうか、予想できることもあればそうでない場合もある。カンパニー側が必要な条件をある程度定め、どこまで調整可能かを正直に相談するほうが良いと思います」と話しました。中村もつづけて「劇場やフェスティバル側のの条件や要望をしっかりとヒアリングし、最適なものを提示します。“クオリティを落とさず安売りはしない”というラインはどこなのか、作品のクオリティにかかわる調整作業はカンパニー側で引き受けてしまう方が、与えられた条件のなかで、作品にとって重要なことを守ることができると思います」と応答しました。

ほかにも、輸送コストや、助成金の申請時期と予算書作成の兼ね合いなどについて質問があがり、講師それぞれの知見が語られました。

現場での経験に基づく具体的な説明や事例紹介、質疑応答がつづき、海外展開に向けた実践的なレクチャーの時間となりました。


レクチャー①「海外展開のための資料作成 - CV、企画書と予算書、テクニカルライダー -」
日時:2024年10月28日(月)16:00〜18:00
講師:鈴木康郎、中村茜
実施方法:対面


レポート作成:臼田菜南