「IN TRANSIT」の育成対象者に向けて実施しているレクチャープログラム、第2回は「海外公演向けの助成金申請とファンドレイジング、KYOTO EXPERIMENTにおける国際協働のかたち」と題し、2025年1月に開催。講師としてKYOTO EXPERIMENT 共同ディレクターの川崎陽子さんを迎えました。

ダンス制作やコーディネーターとしてのキャリアを重ねながら、2011年よりKYOTO EXPERIMENTに関わり始めた川崎さん。2020年から共同ディレクターのひとりに就任しました。「現在は“迎え入れる側”としての役割を務めることが多いです」と話す川崎さんですが、海外公演を実施するための資金調達も数多く経験されています。レクチャーでは、双方の視点からさまざまな知見が語られました。
まずは、海外公演を実施する際の助成金申請についてです。海外公演といっても、自主公演や共同製作などさまざまなケースがありますが、助成金を申請する際は、カンパニーで負担する必要のある費用が明確になってから手続きを行います。川崎さんは、具体的な助成プログラムとして、文化庁「舞台芸術等総合支援事業(国際芸術交流)」や国際交流基金「海外派遣助成」「舞台芸術国際共同製作」、アーツカウンシル東京「東京芸術文化創造発信助成」「スタートアップ助成」、セゾン文化財団「セゾン・フェロー」「国際プロジェクト支援」などを例に挙げて紹介しました。また助成金申請だけでなく、クラウドファンディングといった資金調達の方法についても言及しました。
※助成金の枠組みは毎年変更される可能性がありますので、正確な情報は各機関の公式サイトをご確認ください。
助成制度を詳しく紹介しながらも、川崎さんは、助成金申請を前提としない創作活動の心構えについて指摘します。「公演を実施する前に助成金を申請することが多くなると、助成の条件に当てはまるように活動の方向性を調整してしまうことも出てくるかと思います。しかし、なぜ創作をするのか、定期的に原点に立ち返り、そのうえで作品や創作の方向性に合う資金調達の方法を検討することが大切ではないかと感じます」と話しました。
また川崎さんは、それぞれの助成金がどのような目的をもち支援のかたちとして提供されているのかをリサーチすることの重要性についても言及しました。国際交流や日本経済の活性化など、その目的はさまざまです。「助成金申請を行う際、活動の方向性に合う枠組みを探すことは大切ですが、たとえ合わないとしても、そのズレを意識しながら自分たちの言葉を持って創作活動を継続することが大事だと思います」と話しました。

つづいて川崎さんは、自身が共同ディレクターを務めるKYOTO EXPERIMENT(以下、KEX)について紹介しました。
KEXは京都市で毎年秋に開催される舞台芸術フェスティバルで、2010年に始動しました。2020年に共同ディレクターに就任した川崎さんは、今後もKEXを継続していくにあたって、フェスティバルの空間づくりを意識するようにしたといいます。「フェスティバルといえば、短期間に国内外の多様な作品を一挙に披露するものという印象が大きいかと思います。その要素も大切にしたいですが、毎年継続していくプラットフォームとして、参加者や観客と何を共有できるのかをよく考えました」と話しました。
その実践として川崎さんは「一度の作品発表で終わらせず、長期的な視野を持ってアーティストや国外の地域との対話・協働を続けていくこと」「製作費にとどまらないリソースのシェアを考えること」「京都という地域を超えて協働することで、ローカルな視点のみでは見えてこなかったものを、KEXを通じてアウトプットしていくこと」という3点を気にかけているといいます。「完成度の高い共同製作や招聘のみに特化するのではなく、さまざまな可能性が混ざり合う流動的なあり方を目指しています」と説明し、これまでの国際協働の事例についても、具体的に紹介をしました。

質疑応答の時間には、国際的な活動全般に対して参加者から複数の質問が寄せられました。ある参加者からは「海外の助成機関やフェスティバル等と予算交渉をする際、交渉が決裂してしまわないように、相手の要求に対して慎重になりすぎてしまいます」という悩みが共有され、川崎さんは「創作に必要な金額を精査して、臆せずに、できるだけ根拠を明確にして話すことが大切です」と答えました。
また他の参加者からは、国際協働における契約に関して、交わす時期や気をつけるポイントは何かと質問が寄せられました。川崎さんは「契約する時期については場合によりますが、助成金申請等の結果を経て、予算が明確になってから交わすケースが多いです。予算書自体は契約前に作成し、双方の費用負担の目安について共通認識を持っておくことが大切です」と話しました。また契約時に見落としがちな内容としては「作品のツアー条件」をあげました。「一定期間、近隣の地域での巡回上演を禁じるといった条件が記載されている可能性があるため、契約内容は注意して読み込む必要があります」と答えました。
契約に関しては参加者からもさまざまな声があがります。「ビザの条件として、滞在中に契約した公演出演以外の仕事を受けられない場合がありますが、双方でその認識を共有できていないことがありました」「海外で通訳者の手配を依頼した際に、スキルの高い通訳者ではなく苦労したことがあります。どのような通訳者に依頼したいのか、今後は丁寧に伝えようと思っています」などと、過去の事例が共有されました。
ほかにも国際協働における関係構築について、各参加者の具体的な取り組みに沿って多くの質疑応答がなされ、本レクチャーは締めくくられました。助成金申請を始めとした資金調達の実務的な説明にとどまらず、創作の前提に立ち返ることの大切さや、長期的な視点で国際的な活動を見据える意義などが丁寧に共有され、それらを実践するための手がかりが得られるような時間となりました。
レクチャー②「海外公演向けの助成金申請と資金調達」
日時:2025年1月29日(水)15:00〜17:30
講師:川崎陽子
実施方法:対面
レポート作成:臼田菜南
