「IN TRANSIT」の育成対象者に向けて実施しているレクチャープログラム。第3回は、講師に橋本裕介さん(ベルリン芸術祭「パフォーミング・アーツ・シーズン」芸術監督)を迎えました。

2年目となる2025年度は、プロジェクトのミッションのひとつである「海外での上演実現」に向けた実践的なスキルを磨いていくことに注力し、橋本さんには今回を含めて4度にわたり登壇いただきました。

今回は、橋本さんが活動を広げる西ヨーロッパでの経験をもとに「国外にパフォーミングアーツの活動を広げる」という行為の根本的な問い直しから、海外のプレゼンター等へ向けたアプローチのポイントまで、レクチャーが行われました。

まず、育成対象者に投げかけられた問いは「なぜ国外へ活動を広げるのか」。橋本さんはその理由として、①外部と出会うため、②マーケットを拡大して上演の機会を増やすため、③社会的な信頼感を構築していくため、という3つを挙げました。「外部と出会うため」という理由は非常に理念的で、一方②と③は実利的です。橋本さんは後者をおざなりにしてほしくないと語りました。

舞台芸術は生ものであり、上演をすることで作品が成立します。映像等で記録を残すことができますがマーケットを拡大して上演の機会を増やしていくことも大切です。それが非営利で「マス」を対象にしていない活動であれば、当然海外を視野に入れておく必要があります。またそれは、多くの人の目に触れて社会的な信頼感を構築していくことにもつながり、やがて自分の作品を理解してくれる国内外のパートナーに出会う可能性も広がります。 

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また橋本さんは、活動を広げる「国際プロジェクト」の手段として「海外上演」「国際共同製作」「国際コラボレーション」という3つの考え方を示しました。「海外上演」は名前の通り自国以外で作品を披露することですが、「国際共同製作」と「国際コラボレーション」は、日本において混同されているケースが多いのではないかと前置きしながら、西ヨーロッパでの捉えられ方を説明しました。

「国際共同製作」は、複数のパートナーが資金や場所などのリソースを持ち寄って創作することを意味し、参加するアーティストが複数の国籍にまたがっているといった、内容面での国際性は必要条件ではないといいます。一方「国際コラボレーション」は、異なる母語や文脈を持つ人たちが共に創作をするときに使われているそうです。

しかし、そもそもヨーロッパ圏では、国際コラボレーションという概念がほぼ消滅していると橋本さんは指摘します。「母国ではない場所で活動をしたり、英語などの共通の言語を使用してコミュニケーションをとることが容易な現代において、コラボレーションは常態化しているのではないでしょうか」と言及しました。

つまり、今日において“国際コラボレーションを実施すること”は“協働する相手を敢えて「外部とみなすこと”であり、橋本さんは「西洋中心的であった物の見方が長い時間をかけてアップデートされている過程で、他者を外部とまなざす“国際コラボレーション”は、その有効性をきちんと検証する必要があると思います」と話しました。

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つづいて橋本さんは、国際展開の場として主に登場するフェスティバルの機能や特徴について、自身の考えを共有しました。

まずフェスティバルが持つ機能を3つ指摘します。1つめは「国家や都市が持つ文化的なアイデンティティを基軸においた国際交流ができる」という点で、政治的な背景をきっかけとして誕生したフェスティバルを紹介しました。2つめは「劇場の年間プログラムの補完ができる」という点で、劇場が主催するフェスティバルを例に挙げて説明しました。あらゆる観客に向けた作品の選定が求められる年間のラインアップでは、実験的な作品や新しいアーティストなど、その土地に馴染みのない作品をいきなり組み込むことは難しく、フェスティバルという場を活用して文脈化に取り組むのだといいます。

3つめは、サイトスペシフィックなフェスティバルの例を挙げながら「その地域の歴史や文脈を、芸術と結びつけて伝えることができる」という点を指摘しました。

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次に橋本さんは、キュレーションのコンセプトをもとに、既存のフェスティバルの見取り図を3次元の図で示しました。これは、中心から外に向かって、縦軸に卓越性と実験性、横軸に創造と普及、手前に政治史的と地政学的という視点が配置されており、橋本さん自身の考えに基づいて、各フェスティバルを分類しました。

たとえば、人的・資金的なリソースを持ち、年間を通じてスタッフを雇用して主体的に創作に関わるフェスティバルは、卓越性と創造性が重なる部分に配置されました。逆に言うと、このようなフェスティバルは実験的な既存の作品を招聘するのは難しく、誰もが分かるような卓越性(完成度)が求められるといいます。橋本さんは「自分の作品をどういう文脈のなかで上演し、鑑賞されることを望むのか、また、どのようなパートナーと出会ってクリエーションを進めていきたいのか、これらの整理が役に立てば嬉しいです」と話しました。

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最後に橋本さんは、国際展開において必ず直面するプレゼンテーションについて、その手段やポイントを共有しました。

実演や映像記録の鑑賞は、作品に対する評価を直感的に行いやすいですが、一方で概要書や予算書などの紙媒体は、それだけでは作品を理解することが困難です。しかし、上演が決まったときには、テキストの情報がクリエーションや広報に活用されるため、これらの資料はプロジェクトが始まる時点で用意されていることが望ましいといいます。

また打ち合わせをする際は、自分がパートナーに(お金なのか、創作場所なのか、上演機会なのか)を求めていて、いつそのプロジェクトを実現させたいのか、情報提供の順番に気をつけるとともに、作品の特徴を具体的に説明する必要があると指摘しました。

国外へ活動を広げていく上で、その目的にしっかりと立ち返りつつも、劇場やフェスティバルが持つ役割や機能の整理などの分析も具体的に行われた本レクチャー。力強いエンジンがかかり、「IN TRANSIT」の2年目がスタートしました。


レポート作成:臼田菜南