「IN TRANSIT」の育成対象者に向けて実施しているレクチャープログラム、第5回は橋本裕介さん(ベルリン芸術祭「パフォーミング・アーツ・シーズン」芸術監督)が登壇しました。橋本さんが講師を務める全4回のレクチャーのうち2度目となる今回は、育成対象者に向けた宿題として出された「企画書のブラッシュアップ」と「作品を展開していきたいフェスティバル等のリサーチ」について、そのフィードバックが行われました。
橋本さんは、参加者による宿題の成果がいずれも高い熱量を持つものであったと述べたうえで、共通するフィードバックとして、欧州の舞台芸術フェスティバルの傾向について解説しました。本レポートでは、その内容を紹介します。
はじめに橋本さんは、ひとつの図を示しました。現在の欧州の舞台芸術フェスティバルは、「委嘱・製作・共同製作」「環境問題・持続可能性」「ポスト・コロニアリズム」「外国人ディレクター」という4つのトピックが互いに影響し合い、その中心にはグローバル化(グローバル資本主義)があるといいます。

禁無断転載
「委嘱・製作・共同製作」
これまでは、劇場がその設備や人材を活かして新作のクリエーションに比重を置き、フェスティバルは既存の作品を集めて一気に紹介するという棲み分けで整理されていたものが、近年はその反対で、多くのフェスティバルが新作発表の比重を高めているといいます。「どのアーティストにどのような新作を委嘱するか」という点がフェスティバルのメッセージ性や影響力を大きく左右する傾向にあるそうです。
新作主義の加速により、若手など経験の少ないアーティストに大きな委嘱が集中しているため、その負荷の高さが課題であると橋本さんは指摘しました。
「環境問題・持続可能性」
「環境問題」や「持続可能性」にしっかりと向き合うフェスティバルもあります。
たとえば、環境負荷軽減のため、飛行機で移動する人を演出家のみに制限し、現地のアーティストと作品を立ち上げる共同製作であったり、舞台美術や衣装を複数のカンパニーで管理して、廃棄を最小限に抑える取り組みを紹介しました。
また「持続可能性」については、経済面のほかに、“才能”という側面についても意識的になる必要があるといいます。前述の新作主義による弊害として、特定のアーティストにオファーが集中して、その人の思考や体力を消耗させることを避けるため、段階的なステップアップに取り組める環境の構築が検討されているそうです。
「ポスト・コロニアリズム」
多くのヨーロッパ諸国は植民地支配の歴史を持ち、現在も旧植民地出身者が国内に居住しています。そうした状況の中、マジョリティ・マイノリティに関わらず、多様な声を反映させる試みとして、近年は多文化主義を掲げるフェスティバルが増えています。
具体例として「ゲスト言語」の制度を導入したアヴィニヨン演劇祭を紹介しました。今日的な世界状況を捉えるために毎年ある1つの言語を「ゲスト言語」と定め、それを軸に作品を紹介する試みです。
こういった取り組みは「ポスト・コロニアリズム」を本質的なテーマとして扱っていると捉えられる一方で、フェスティバルによっては、自国が宗主国であったことへの“贖罪”としての意味合いが深いものや、“公的予算を獲得するためのロジック”としているものもあるといい、海外展開をする際には、そのフェスティバルの掲げるテーマが、どのような目的を内包しているのか注視する必要があると、橋本さんは指摘しました。
「外国人ディレクター」
さらに橋本さんは、近年外国出身のディレクターが増加している傾向にも触れ、複数のフェスティバルの例を挙げました。これは、出身国に関わらない活動拠点の多様化や、開催地における多文化主義を体現しようとする試みの両方が背景にあるといいます。
その影響として、旧植民地出身のアーティストの作品は、上演する場所の歴史だけでなく、ディレクターの出自によっても、前景化するものが変化していると言及しました。
以上4つのトピックに沿って欧州の舞台芸術フェスティバルの傾向を紹介した橋本さんは、その内容をふまえながら、参加者が取り組んだ宿題の成果について具体的にフィードバックしました。
レポート作成:臼田菜南
